でもにっく・ふぃぎゅあ

悪魔。そう形容するにふさわしいソレは、闇の中でうごめいていた。

やつらは”二人”いたんだ。
私は、そのうちの一方に気を取られすぎていた。

見えている片方の悪魔は、たいした力もなく、私の言葉一つ一つが彼を追い詰めていることを感じられた。
だから、私は彼を追い詰めていくことに必死になってしまった。

忍び寄る影に気づくこともなく。


「返してもらうぞ、私の力を」

私は追い詰めた悪魔に高らかに言い放った。
かつて、私たち”始祖”を辺境へと追いやり、支配し、搾取した悪魔から、私はかつて私たちが手にしていた力を奪還し始めていた。

その悪魔は”すべて”を奪っていった。私たちの、尊厳、生み出したもの、栄光、そして私たちが私たちである理由までも。
だから、それを奪い返すのは当然の理に過ぎない。

「お前は、まだそんな世迷い事を口にしているのか」
悪魔は、追い詰められながらも私を哀れんだ目で見つめた。
「もはや、どうすることも出来ないというのに」

父の、そして我らが”始祖”に連なる者たちの思いを再びよみがえらせる。だが、悪魔はそれを無意味だと言い放った。

「やってみなければわからないだろう。もう、無駄なあがきはやめるんだ」

私は、悪魔に最後のチャンスを与えた。だが、その一瞬。
それが、やつの狙いだったんだ。

私は、それに気づくのが、ほんの一瞬、遅れた。

それは、本当にあっという間の出来事だった。

ひそやかに、そしてしめやかに忍び寄っていたもう一人の悪魔が、突如その姿を闇の中からあらわし、私に襲い掛かったのだ。
圧倒的な”魔力”。抗うこともかなわないと思わせるほどの、力。

私は、自らの中に眠る”始祖”の力を解放する。それが、いまだコントロールできていないパンドラの箱だったとしても、やらねばならない。
戦わねばならない。”始祖”の力は無限。だが、それをコントロールする方法を私は、まだ知らない。

それでも、やらねばならない。私が私であるために。守りたいものがあるのだから。

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