出会いはいつも突然だし、それが生み出すものもまた唐突だ。

父の言葉を胸に刻み、ふるさとを後にした私は、その大都会の片隅、スラムと呼ばれる巣窟で、彼女に出会った。
黒い瞳と、黒い髪。そして、その風貌はひとめで私に彼女が”始祖”の末裔であることを知らせていた。

直感、そういっていい。


「理由？」

彼女は何を当たり前のことを、と言いたげに小首をかしげた。
私は彼女を呼び止め、私の目的を話した。突拍子もないような私の話を、彼女はすぐに理解していた。
あまりにも当然のごとく受け入れる彼女に、私は思わずその理由を尋ねずにはいられなかった。

「理由なんて、必要あるの？」

彼女は何を言ってるのだと言いたげに私を見た。

「誰かを信じることに。何かを信じることに、あなたは理由が必要なの？」

彼女は逆に私に問い返した。理由？　必要なのか？　私は父の言葉を信じるのに理由が必要だったのか？

「そういうこと」

くすくすと笑いながら彼女は言った。誰かを信じること、何かを信じることに理由など要らないのだと。
自分自身の心のあり方一つなのだと。
本当に大切なこと。本当に大事なことは目に見えない。誰かの言葉を引いて、彼女は歌うように言った。
だから、と彼女は笑っていった。

「私があなたを好きになっていても、それに理由なんかいらないのよ」

そうか。ただそれだけのことか。私はあきれたようにつられて笑った。
私はただ信じればよいのだ。父の言葉を。彼女の思いを。

そして、私はあの存在に出会うのだ。あまりも圧倒的な、あの悪魔に。