ハイパーインフレ継続中。

ジンバブエ共和国。アフリカ南部にあるこの国は、東部の多くを山岳に覆われた高原地域である。

気候はアフリカにありながら熱帯性温暖気候。非常に過ごしやすい気候特性を有した内陸国家。
モザンビーク、南アフリカ、ボツワナ、ザンビアに隣接する。

この国は、今、とんでもない状態に置かれている。


ハイパーインフレ。物価の上昇が経済基盤の成長にまったく見合わない速度で加速する異常現象。
中高の教科書で有名なのは第一次世界大戦後のドイツではないでしょうか。

連合国に対し莫大な賠償金を負わされ、国内経済は戦争により疲弊、賠償の支払いによって負った借金により経済は完全に破綻、瞬く間にインフレが進行。
インフレの発生は基本的には非常に単純なメカニズムで起こります。

市場経済原理の場合、基本的には物価というのは需要と供給によって釣り合いを取っています。
中学校の公民あたりで習いますね。神の見えざる手、です。

需要と供給のバランスがとれている場合、平均物価指数はそれほど大きく変動はしません。
逆に、需要が増加し、供給が少ない場合、「モノをほしがってる人が多いのに商品数は少ない」という状況になるわけで、高値を付けても買う人が出てくるわけです。
こうなると当然安値で売ってもしようがありませんので、高値を付ける。高値でも売れますから。
これがインフレーション。

逆に需要がたいしてないのに、供給が多すぎる状態になると、今度は物価が下がり始めます。
これがデフレーションですね。

インフレ・デフレの発生は何も商品と需要のバランスだけが起爆剤ではありません。
たとえば大量の紙幣の印刷。これは、市場にその紙幣の流通量が増大することを意味します。
相対的に紙幣価値は下がります。紙幣価値が下がる、ということは、物価が上がるということです。

インフレの極端なものをハイパーインフレーションとよびます。
一方で、デフレの極端なものをハイパーデフレーション、とはあまり聞きません。そもそもそんな言い方するのかも知りません。ハイパーインフレは言うけれど。

大量の失業者を生み出し、経済は麻痺、商品を作っても失業者だらけでモノが売れず、商品価値は下がり続け、それに合わせて給与はどんどん減っていく。
そのため市場に出回る流通通貨はガンガン減っていき、しまいには希少資源であるかのように扱われる。相対的に貨幣価値はぐんぐんウナギ昇り。ってのがハイパーデフレに当たるんだろうか?
商品価値に原価or無料の下限がある以上インフレと違って限界がありそうな気はするんですが、このあたりはよくわかりませんね。

どっかで見た話ですね。貨幣価値がガンガン上がって喜んでる人がいましたよね。
そう、韓国。乱高下する貨幣ってのはとんでもなく危険なシロモノです。それを利用した差益収支を狙うのがFX。Foreign eXchange、外国為替取引。

デフレの状態から、一気にハイパーインフレへ持ち込むと、そのタイミングでものすごい貨幣価値の変動が発生します。
基本的に経済は天秤ですから、デフレに振れると次にインフレに振れます。この波を景気といいます。
もちろん、景気は複数の波で構成されるため、好景気->好景気みたいな波もあります。ていうかあるらしいです。さっさがそう言ってました。ぼくよくわかんない。

デフレの段階でその通貨を大量保有していると大金持ち。でもそれを放出するとインフレが起きる、というほどの通貨を有しているヒトがいたとしましょう。使うに使えないわけです。
使うとインフレが起きて持ってるお金が紙屑になります。保有しているだけなら金持ち。つまり、死んだお金。

このように使えないお金がたまってしまった状態がデフレの状態です。投資しても何をやってもインフレを招き、貨幣価値の下落を起こし、資産が投資評価額を割り込む場合、投資もできない。
だって使えば使うほど損をするってわかってる時にお金を使いますか? 使いませんよね?

ハゲタカはこれにFXを絡めることで故意にデフレインフレを引き起こし、その差益を喰う、という行動をとることによって資産を確保します。
最終的にはさらに海外通貨に逃げた後、インフレーションの起きた国家内の国内企業や不動産を買いあさり、これらの持つ土地そのものの価値であったり、企業の持つパテントであったりを確保し、それらを売ることでさらに利益を得ることを狙います。
※この場合、対象国の景気が回復することが前提ですが、外資注入になるので回復に向かいやすくはなります。ただし、国としての力はほとんど食い荒らされると言ってよいでしょう。

専門じゃないしどうでもいいのでものすごく話は単純化してしまっています。
実際の経済の動きはもっと複雑ですし、生き物みたいな動きをします。

デフレではいかに消費者にお金を使わせるか、その政策が重要になります。お金を使うには、借金をしやすくし、流通通貨量を引き上げる方法が一般的。つまり、低金利政策ですね。
インフレは逆で、市場に出回ってしまった通貨を回収しないといけませんから、高金利政策が効いてきます。もっとも、ハイパーインフレとなるとそんな小手先ではどうにもなりません。

そこで! 呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん。

デノミネーション。通貨単位切り上げ、切り下げ。新しい通貨を発行していまい、流通通貨量を一気に変えてしまうという荒療治がラストウェポンとなります。
たとえば、新10円を発行します!この貨幣は1万円札と等価交換となります!みたいなことをすると、市場に出回る円の総量は1/1000に圧縮されます。結果、通貨流量が減るため極端なデフレに振れます。
逆に、10円を新1万円札と交換します!ということになるとインフレを作り出せます。
それぞれ、物価もそれに合わせて大きく変動しますが、なぜこのデノミネーションはラストウェポンなのでしょうか。

デノミネーションは両刃の剣です。デノミの単位をミスればインフレ、デフレから今度は全く逆の状態になってしまったりもします。また、国際的な通貨に対する信用度は(インフレデフレの時点でかなり薄れてはいますが)ガタ落ちします。
さらに、この通貨変更によって国内はほぼパニックに陥るはめになります。
また、デノミは交換通貨量を制限されることがあります。特にハイパーインフレの場合に。
一気に流通量が激変することを避けるため、通貨の交換量が一日いくらまで、などと制限されてしまったりするわけです。交換期間が決まっている場合も多く、そうなると毎日交換したって、交換できる総量が決まってしまいます。
その総量を上回る保有通貨は文字通り”紙屑”になるのです。国内政権基盤はズタボロになりますし、最悪クーデターを含めた政権交代劇や、ことと次第によっては国家体制の変更まで起こり得ます。

さて。ジンバブエの話でしたね。

ジンバブエ。元イギリス連邦所属の一国です。
本来はアフリカ南部の諸国の中でも、かなり安定した国家でした。南アフリカのダイヤモンドに並び、この国には世界有数のプラチナをはじめとする希少金属類の一大産出国。
このため、積極的に外資を取り込んでおり、経済的には非常に豊かであったと言えます。

また、農業も盛んに行われ、白人の農園主による大規模な機械化された農園が多々存在し、小麦の輸出は実に輸出取引の半分を占めるほどでした。
ザンビアとの国境には、世界三大瀑布、イグアスの滝、ナイアガラの滝に並ぶ、ヴィクトリアの滝がうなりを上げ、観光資源も豊富でした。
金属資源の加工による工業も外資を含め多くの企業が存在し、工業・農業そして鉱業が高いレベルでバランスを保っていました。

ただし、南アフリカ圏の白人至上主義が根強く残っていた国でもあったのですが。当時はローデシア共和国、といいました。独立を求める黒人勢力との内乱もあり、1980年、イギリスの調停によりここに民主主義共和国であるジンバブエ共和国が誕生。初代首相はロバート・ムガベ。1987年に大統領制に移行、引き続きムガベが政権を指揮しました。

彼は、黒人と白人の差別政策を撤廃、融和政策路線を推し進めます。これは、国際的に高い評価を得たもので、アパルトヘイト政策を推し進めた南アフリカとは対称的と言えるものです。
このように、非常に豊かで、なおかつ安定した国家であったジンバブエ。しかし、崩壊は起こりました。
他ならぬ、ムガベの手によって。
それは、ある意味では白人による影響を黒人の手に取り戻そうとした一環でもありましたが、その手法はあまりにも愚かだったのです。

2000年 白人所有大農場の強制収用を法制化。
※ジンバブエの黒人に無償返還せよ、という趣旨でした。

これにより、最も豊かであった国内産業である農業が大打撃を受けます。白人の投資により機械化され、高い生産効率を有した農園は数世代退行し、白人の投資は引き揚げ、機械化農園は人の手による原始農業に立ち返ります。輸出の大部分を担っていた小麦の輸出は国内の消費をカバーすることすらかなわなくなり、インフレが始まりました。

国内経済は停滞、第二次世界大戦以降最大級とよばれるインフレが始まったのです。

2007年 外資系企業に対して株式の過半数を「ジンバブエの黒人」に譲渡するよう義務化

これが可決され、外資系企業は総じて撤退。国内産業だけですらすでに立ち行かなくなっていたところに、外資系の撤退。
これにより、事実上経済制裁に匹敵する状態を作り上げてしまったのです。

中央銀行の発表ではインフレ率は2008年には24,470%を記録。24%じゃないですよ? 2万、4千470%です。が、実質的な市場物価は150,000%を超えているという見方もあります。
日率に直して67%というインフレ率。昨日100円だったものが今日は167円。

2000年のファスト・トラック政策は欧米の批判を招き、英連邦の脱退、欧米への渡航禁止を通達されますが、これにジンバブエは強硬に抵抗、対抗の措置をとります。
また、政権基盤においても対立候補への弾圧を実行するなど、かつての賢政の片鱗はもはやどこにもなくなっていました。そして、路上不法占拠者などをゴミ片付けと称した政策で一斉撤去、これは人権問題として世界的な批判にさらされ、G8から憂慮表明を受けます。

2007年の強攻法案は、2008年に控えた大統領選において、ムガベ大統領の支配基盤の確立のため、黒人の人気取りとして行われたものです。なぜなら、それ以前の大統領選が民主的ではない可能性が高いことを示唆され、2008年の選挙は南アフリカによる調停が割り込み、ジンバブエ単独での選挙実施ではないのです。
このため、ムガベは黒人層の取り込みに必死になっていると言ってよいでしょう。
また、このために中央銀行は資金供与を続けており、インフレを抑制するための資金制限はかけれていません。少なくとも、大統領選が終わるまでは、大胆な政策はとれないと言ってよい状態であり、デノミも高金利政策もとれません。もっとも10万%を超えるインフレ率に対して金利政策なんてどこまで効くのかわかりゃしませんから、もはやデノミ以外ありませんが、選挙までは絶対に動けない、という状況。

そして、欧米との関係悪化はもう一つの世界圏との接触を促進しました。
中華人民共和国。

中国との関係が強化され、アフリカにおける中国の支配基盤はますます強固なものとなりつつあります。
かつての西側、東側といった見方はすでにありませんが、中国の影響圏は確実に拡大路線を歩んでいます。
インドが失墜すればアジア圏はほぼ中国に飲み込まれ、日本は西側の最前線基地として中国にさらされることになるでしょうね。それまで、日本が中国の侵略に耐えきれれば。

ジンバブエの出来事は決して他人事ではありません。

世界、という中に日本がある以上、関係ない出来事なんて一つもありません。
ジンバブエ、どうなってしまうんでしょうね。

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