奏法と楽器によるデータの変化

沙耶です。チェンバロによる通奏低音。これはバロック期の楽曲でのベーシックな手法でもあります。
一方、当時通奏低音を演奏させるのが当たり前だったチェンバロにメインのメロディを担当させたのも、J.S.バッハですね。

ブランデンブルグ協奏曲。BWV:1046~1051

カンタータ169番はBWV169、「神のみにわが心捧げん」。
チェンバロ協奏曲第二番だとBWV1053かな?


BWV169だと完璧に教会の声楽曲なので、このままではDTMには向きません。声楽曲は声楽がメイン。
ですので、いじるとすればBWV1053になるかと。チェンバロ協奏曲として編曲されたものが最も適するかと思われ。

さて。

その前に通奏低音って何かって話ですよね。通奏低音ってのは、非常に低音域においてキーノート単音などを”途切れることなく”演奏し続けるもの。バロック時代に成立しましたが、これはロマン派や古典派などでもよく見かける奏法です。ハープシコードをここに当てるのはバロックが多いですね。
近代に近いオーケストラではこの通奏低音はコントラバスなどにやらせることが多いです。

通奏低音にもいくつかの手法があり、弦楽器類やファゴットなどのメロディラインをやれるものではメロディのユニゾンを行っての厚みを作ることが多く、逆にハープシコードやハープといった和音生成が可能な楽器類では和音による低音コードを演奏することが多くなります。
めんどくさければキーノートを延々やってもそれなりに様になります。

基本的には音の厚みを生み出すための技法なので、DTMではとにかくいくつかのトラックを重ね合わせていくことでこれを再現します。
ここの理解には音成分に関する知識が必要になってきます。
すなわち、倍音成分についての理解が必要です。8度変化した音は、キーノートの倍音となっています。
単音のもつ音の周波数成分が、どういう分布になっているか、というのもここではとても大事な話です。

たとえば、バイオリン二本を用いて同じメロディとその8度下のユニゾンを行った場合と、バイオリンとピアノによるユニゾンでは出力される音の周波数成分分布は全く異なります。

単音でもそのキーノートとなる周波数成分と、その倍音に当たる周波数成分を持っています。さらに二倍、三倍になる倍音の周波数成分も含みますが、このすべてが聞こえるわけではありません。
バイオリン二本の場合は、それぞれの持つ周波数成分は全く変わりませんから、ユニゾンをした場合、キーノートの周波数成分はバイオリン一本のキーノート周波数成分+倍音成分。
一方でピアノとのユニゾンである場合は、バイオリンのキーノート周波数成分+ピアノの倍音周波数成分。これらがリアルタイムに変化していくわけです。

音、とは基本的にはアタックとリリースの二つの要素から成り立っており、このそれぞれで含まれている倍音成分の割合は変わっていきます。
もうこのあたりはシンセサイザーの知識に入ってきますが…。
楽器の音、とはこのアタックとリリースを持つ単音を複数組み合わせたものであり、これをもってして楽器の音という形になります。ギターの音とピアノの音が異なるのは、この音成分の組み合わせが異なるからです。

では、音の厚み、とは何か。こりゃもう単にその周波数の出力がでかいか少ないかにすぎません。
ですから、厚みを出したいとこにはトラックを幾枚も重ねていくわけですね。
まったく同じトラックをいっぱい重ねてもあんまり効果はありません。同じ音がいっぱい重なるだけなら、ボリュームを上げればいいのです。同じ楽器の同じ音を重ねるなら、8度下や上のユニゾンや、四度五度三度あたりへのハーモニクスを重ねるべきです。

異なる音成分を重ねることで、アタック時やリリース、時間経過による音変化に伴う倍音成分の変化が本来のその楽器の単音にくらべ、異なる挙動を示すと、ヒトの耳はそれを感じ取ります。
実は、このあたりの音成分の理論はすでにバロック期にはある程度知られているものです。
#理論として完成するのはもっと後だったとは思いますが、体験的に理解されています。

特に協和音に関してはバロックですでに完成されていると言ってもいいでしょう。

このため、バロック音楽ってのはものすごいレベルで調和を重視します。ぶっちゃけ、不協和な音が発生することを著しく嫌います。
これを「不協和->協和」などの不安定な変化を利用する器楽曲になるにはモーツァルトやベートーベンの登場を待つことになります。
基本的にバロックはすべて協和音で構成していくものです。

さて、では、ハープシコード協奏曲です。
BWV1053がどういう構成か知りませんが、協奏曲なんでたぶんハープシコード1、バイオリン1,2。あとはもしかしたら木管が一人混ざるかもね。くらいの構成なんじゃなかろうか。

この頃は基本的に室内管弦楽で少数の演奏です。オーケストラのような大規模な構成になるのはもっとずっとあと。

さて。実はこの再現はとてもメンドクサイ。
理由。

弦楽器しかいないからです。

DTMの音源モジュールが一番苦手なのが、弦楽器なのです。なぜって奏法が多すぎるから。
バイオリンの奏法、どれだけ知っていますか? 弦を抑える指のわずかな動きで様々な音変化を起こしてしまうのです。というわけで、オーケストラを再現するDTMの場合、如何にバイオリンの再現性の低さを他でごまかすか、というのが主要な狙いです。

バイオリンの再現は無理です。

次。ハープシコードも実はこれ弦楽器なわけです。奏法は少ないので楽ですが、そもそもハープシコードの特性は理解しておかなくてはなりません。
ちなみにピアノは打楽器に近い。打弦楽器。ハープシコードは撥弦楽器。

ところが、この少数の室内管弦楽ではバイオリンがごまかせません。ほかの音がほとんど存在しないからです。
非常に厄介ですね。バイオリンの再現データは、正直な話DTMをしっかりやってる人でもイヤがります。ギターも嫌がられますが、こっちはエレキを弾いたのをそのまま取り込めばまだ何とかなります。
エレキのバイオリンもあるにはありますが…。

この点から、クラシックにおける少数の室内管弦楽の再現ってのは結構大変なことです。

しかしそれでもやってみる!というのであれば頑張ってみましょう。
まず大事なことは、すべての楽器の特性をしっかり理解しておくこと。
いったいどんな管弦楽構成にやらせるのか。まずそれを決めましょう。指揮者はあんたであって譜面じゃないんです。

バイオリンの奏法はすべて頭に叩き込みましょう。そして、バイオリンの音をそのままサンプリングして取り込んだ音源を使いましょう。シンセサイザーで作りだしたバイオリンの音はそもそもバイオリンに聞こえません。アタックとリリースが短調すぎるのです。バイオリンは弦楽器のなかでも特にその音成分の複雑さが際立つ楽器なので、管楽器類のような音特性がはっきり出る楽器ではありません。

表情豊かな楽器、ではありますが、その技法が弦の振動コントロールであるため、アタックよりもリリースをコントロールをする楽器なのです。

逆にピアノとかハープシコードは弦楽器でありながら、その表情は基本的に音の大小をメインにします。
#言い出したらきりがないからすごく乱暴な切り方ですがw
これはアタックの与え方をかなり自在に操る、という意味が大きいので、表情をつけやすいんですね、データでも。

DTMにおける音のヴェロシティってのはアタックを変化させてそれに対してリリースの割合が決まるので、発音後のリリースをコントロールできるバイオリンの再現は恐ろしく難しいんです。
#リリース周波数部分からヴェロシティやピッチコントロールを与えることで似たようなことはできます。
 ただし、ものっそいめんどくさい。

バイオリンの譜面の一音にかかる手間とピアノの一音にかかる手間が、DTMでは段違いだったりします。しかも周波数とか当たり前に頭に入ってないとキツい。

さて、次にハープシコード。通奏低音部分かな。これは理解さえしちゃえば楽です。
ハープシコードは構造上、キーを叩くと弦が震え、”キーを離すと”音が”止まり”ます。
ここは決定的にピアノと違う点です。ピアノはキーを放しても音は弦が減衰するまで震えています。
これさえ分かっていればハープシコードで通奏低音をやるときの注意はわかりますね。

”譜面どおりに入れたらダメ”です。途切れます。途切れないように、リリースの消え方と相談して次の小節の頭にすこしかぶせましょう。ピアノのスラー奏法の際のデータの作り方に似ています。
ハープシコードも独特の音特性を持つので、シンセ音よりはサンプリングサウンドの方がお勧めですけどね。

VST探せば結構いろんなサンプリングサウンドの音源があるので、VST探しまわることから始めることをお勧め…。

あとはハープシコード一台だから、ってDTMのトラックが一個じゃなきゃいけない理由なんてありません。
沙耶がよく使ってたのは、ピアノを作るときに右手と左手でそれぞれ異なるトラックを割り当ててました。
また、演奏時の運指によって、小指は音を気持ち小さく。親指や人差し指はわずかに大きく。
とかうやってました。すでに自己満足の世界もいいとこだったりしますが。

バイオリンも一台or第一バイオリンあたりで2~3トラック割り当てることが多いですね。奏法ごとってのもありますし、要所要所でのピチカートやビブラートを単音でかけたりするのに。

そしてそういうことやってると、DTMは「ただひたすらめんどくさい」。
満足いくまで作りこんだときの自己満足感はものすごいですが、ぶっちゃけものすごい手間のかかるオナニーとなにも変わらない、という話も無きにしも非ず。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です